逆境をばねに
― ウィズ・コロナの時代といわれますが、建設業界、マラソン界それぞれの状況をお教えください
奥 村 昨年4月に緊急事態宣言が発出されたのを受けて、当社では、各事業所はリモートワークに切り替え、工事現場は特定警戒都府県において、お客様のご理解を得た上で工事を止めました。すぐに止めた現場は全体の15%ほどで、ゴールデンウイーク明けには再稼働しました。以降、感染防止策を徹底して工事を進めてきましたので、それほど大きな影響はありませんでした。
しかし、今後、コロナによって大なり小なり影響を受けた事業者が設備投資に消極的になると見込まれ、建設市場の先行きに強い危機感を抱いています。建設産業は建設資材の製造業を含めたさまざまな業種に支えられる裾野の広い産業ですから、雇用・経済に非常に大きな影響を与えます。これから踏ん張りどころだと思っています。
瀬 古 陸上競技は昨年3月の終わりから6月まで試合がすべて中止になりました。一番ショックだったのは、夏の大きな大会が延期されたことです。代表選手も監督も先が見えなくて心配していたので、すぐに記者会見を開き、代表はそのままですと発表して、やる気にさせるようにしました。7月にホクレン・ディスタンス・チャレンジ2020で競技会を再開し、代表選手の3人が自己新記録を出したのには驚きました。競技場が閉鎖されて満足に練習できない状況なのにコロナ前よりレベルが上がっているんです。
情報の共有化で新たな課題発見
奥 村 長い間レースから遠ざかっていると感覚が衰えることはないのですか。
瀬 古 選手によってはあります。試合がないと鍛えられないので。それでも彼らは与えられた環境の中で完璧に自己管理をして記録を更新した。私はかえって自信を持ちましたね。今、2カ月に1回、リモートで代表選手の指導者と公式会議を開いて、現状や困っていることを共有し、どうすればいいかを話し合っています。これは初めてのこと。それまでは監督は自分の選手のことを話したがりませんでした。チームジャパンとして全員で情報を共有し全員で戦おうと一致団結することができた。
奥 村 建設業界でも全国の事業所同士、また事業所と現場を結ぶために、これまで以上にオンライン会議などを活用したことで、より情報の共有化ができ連帯感も高まったと思います。一方で、リモートワークを推し進めたことで、書類の電子化がまだまだ進んでいないなど業務の非効率な部分も浮き彫りになりました。今、猛烈なスピードでペーパレス化をはじめとした業務改革を進めているところです。
大会開催への感謝と思い
― そんなコロナ禍の中で大阪国際女子マラソンが開催されます。その意義をどのようにお考えですか
瀬 古 大会開催に感謝します。選手たちは走りたいんです。走れるのは当たり前、大会があるのは当たり前と思っていましたがそうではない、企業やボランティア、ファンの方など多くの支えがあって開かれているとみんな実感したと思います。大会の中止が続き、選手が一つ一つの試合に懸ける思いはすごい。他の試合でも日本新記録がどんどん出ています。今回の大阪国際女子マラソンは歴史を変える日になると思います。
奥 村 大会はアスリート同士が競い合う場であると同時に、陸上ファンのみならず多くの日本国民を激励するイベントだと思います。コロナ禍でその重みはさらに増しています。選手の皆さんには、コロナ禍にあっても夢に向かって走り続けてきた成果を存分に発揮していただきたいと思います。その姿を見た多くの人が自分も負けていられない、頑張らなければ、と奮い立つことでしょう。私自身もそうした思いに駆り立てられたいと思っています。当社は、本社を置く地元大阪を盛り上げたい、また、女性の活躍を応援したいとの思いから、本大会を協賛しています。毎年約150人の社員がボランティアとして沿道からの応援などで大会をサポートしてきましたが、無観客で開催される今年はそれができなくて残念がっていると思います。
瀬 古 協賛企業として支えていただき本当にありがとうございます。一つの大会を走るために選手は半年前から目標を定めて練習しています。大会の開催は地道に努力を続ける選手のモチベーションになっています。
目標に向けて果たす使命
奥 村 選手の皆さんは、体調やモチベーションの維持など、自己管理が大変ではないですか。
瀬 古 マラソンは自己管理がシビアで、選手は大会に向けて節制しています。トップ選手がコロナになったと聞いたことがない。マラソン選手は自分の体のことがめちゃくちゃ分かるんです。体調を敏感に感じて、何を食べたらいいか、どれぐらい練習すればいいかを管理します。トップ選手はそうやって365日走り続け、休む人はいません。
奥 村 建設業も日々止めることなく工事の完成に向けて現場を動かしています。例えば、それが病院の建設工事だとしたら現場を止めることで、新たな医療の場の完成が遅れてしまいます。開設が遅れたことで救えるはずだった命を救えなくなるかもしれない。そうならないためにも、必要な品質を確保しつつ工期内に工事を完成させることは建設業の大きな社会的使命なのです。
瀬 古 選手も同じです。コロナを言い訳にしてはいけない。努力を怠らず、自分に与えられたことをしっかりやってパフォーマンスを出し切るしかありません。
大会史上記憶に残るレースに
― 今回はコロナの影響で参加人数が制限され、例年以上にエリートランナーに特化した異例の大会になります
瀬 古 そうですね。外国人選手を招待できないので、特例として大会史上初めて川内優輝選手ら男子選手がペースメーカーとして走ります。夏の大会に向けて代表選手が日本記録を更新し、自信を持ってそのスタートラインに立てるようにしたい。
奥 村 ぜひ、日本新記録を出してほしいですね。
瀬 古 ペースメーカーも選手の調子が良ければ途中でペースを上げていきます。川内選手が引っ張って女子のトップ集団が走るのだからこんな楽しいことはない。今からワクワクします。
― 今年の「大阪国際女子マラソン」にエールをお願いします
奥 村 第40回という節目の大会はコロナ禍の中でこれまでにない形で開催されますが、選手には一層輝いていただき、この大会があったからその後活躍できたと言ってもらいたい。そのために、協賛社としてできる限りのサポートをしたいと思っています。今大会は感染防止対策を徹底するため、長居公園内の周回コースを使った無観客でのレースが行われることになっています。例年のように沿道から声援をいただくことはできませんが、テレビを通して選手を応援していただきたい。
瀬 古 年明けの一番大きな大会が大阪国際女子マラソンです。我々が夏の大会に向けてマラソンは元気だ、と花火を打ち上げないといけない。選手たちがコロナの逆境を乗り越えてひたむきに走る姿を見て、自分も頑張ろうという勇気が湧いてくるような大会にしたいと思っています。日本記録が出るのでテレビでは最後のゴールまで絶対に目を離さないでください。1㌔ごとに1秒を削り出すようなすごいレースになりますから。
― ありがとうございました
堅実に、誠実に、114年
第40回大阪国際女子マラソン 1月31日(日)号砲
大阪国際女子マラソンは、1982年にスタートし、今年で40回目を迎える。今年は、川内優輝をはじめ男子ペースメーカーを起用し、夏の大会に向けた強化の場としての機能を目指し、日本記録に挑戦する環境を作り出す。号砲は、1月31日(日)12時10分、長居公園周回路。
※当日は新型コロナウイルス感染症対策のため、ヤンマースタジアム長居および長居公園での観戦はできません。ご来場はお控えいただき、テレビ中継をご覧ください。
◆テレビ中継◆
2021年1月31日(日) ひる12時~午後2時55分
カンテレ・フジテレビ系全国ネット
Profile
奥村 太加典氏/おくむら・たかのり
(奥村組 代表取締役社長)
1962年奈良県生まれ。中央大学理工学部土木工学科卒業。86年奥村組入社、2001年、39歳で5代目社長に就任し、着実な成長を牽引している。マラソンにも挑戦を続け、52歳でフルマラソン3時間2分38秒の自己ベストを更新した。
瀬古 利彦氏/せこ・としひこ
(日本陸上競技連盟強化委員会 マラソン強化・戦略プロジェクトリーダー)
1956年三重県生まれ。早稲田大学在学中の78年、福岡国際マラソンで優勝。80年エスビー食品に入社。83年の東京国際マラソンでは、日本人初の2時間8分台で優勝。ロサンゼルス五輪、ソウル五輪に出場。現在、横浜DeNAランニングクラブエグゼクティブアドバイザーを務める。